特別寄与料の請求
1 相続人以外でも介護の対価を請求できるように
特別寄与料の支払い請求は、相続法改正で新たに設けられた制度です。
特別寄与料については民法1050条に規定されています。
民法1050条
1 被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした被相続人の親族(…以下この条において「特別寄与者」という。)は、相続の開始後、相続人に対し、特別寄与者の寄与に応じた額の金銭(以下この条において「特別寄与料」という。)の支払を請求することができる。
2 前項の規定による特別寄与料の支払について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、特別寄与者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、特別寄与者が相続の開始及び相続人を知った時から6か月を経過したとき、又は相続開始の時から1年を経過したときは、この限りでない。
3~5 略
介護をしていた人の相続の取り分が増加する「寄与分」について、これまでは相続人にしか認められていませんでした。
そのため、これまではどれだけ献身的に介護をしていたとしても、相続人ではない親族は遺産を取得することができませんでした。
しかし、特別寄与料は、相続人だけでなく「親族」にも認められるようになったのが最大の特徴です。
この「親族」には、相続人となれなかった兄弟姉妹だけでなく、亡くなった方の奥さんの親戚なども含まれてくるため、今後広く活用されていくでしょう。
2 特別寄与料の請求手続き
法律は、話合いがまとまらないときは、6か月または1年以内に家庭裁判所に調停を申し立てる旨を定めています。
参考リンク:裁判所・特別の寄与に関する処分調停
もっとも、法的な要件として、特別寄与料の支払いを請求するためには、必ずしも決まった要式はありません。
話合いが可能であれば、協議により金額を決めて支払ってもらえれば終わりです。
しかし、裁判所に申立てをされるリスクがなければ、請求される側が話し合いに応じる可能性は低いため、6か月以内に話合いを行い、裁判所に申立てを行うかどうかの決断をするべきでしょう。
3 特別寄与料が認められるための条件
民法1050条で特別寄与料が認められるための要件が決められています。
一つの文章になっているため読みづらいですが、切り分けると次のようになります。
- ① 無償で
- ② 療養看護その他の労務の提供をしたこと
- ③ 被相続人の財産の維持又は増加
- ④ 特別の寄与
- ⑤ 請求者が親族であること
- ⑥ 6か月もしくは1年の時効
⑴ ①無償で
寄与分と同じ要件で、介護等の対価をもらっていた場合は、特別寄与料は認められません。
そのため、介護のたびにお小遣いをもらっていた場合や、介護のお礼として生命保険金の受取人になっている場合は注意が必要です。
⑵ ②療養看護その他の労務の提供をしたこと
寄与分と異なり、特別寄与料は介護等を行った場合に限られます。
寄与分は、親に家を買ってあげたなど、直接的に金銭的支援をした場合(いわゆる「金銭出資型」)にも認められる点で違いがあります。
⑶ ③被相続人の財産の維持又は増加
寄与分と同じ要件で、ただ介護をしただけでは認められません。
例えば「本来は介護がなければ頼まなければならなかった介護サービスの支払いをしなくて済んだ」等、何らかの事情がなければなりません。
⑷ ④特別の寄与
文言的には、寄与分と同じです。
しかし、審判例では、
「実質的公平の理念及び被相続人の推定的意思という制度趣旨に照らし、その者の貢献に報いるのが相当と認められる程度の顕著な貢献があったことを意味するものと解される。」
(東京家審令和3年(家)第86号~第98号)
とされており、その内容が異なります。
何をもって「顕著」とするかは、当該審判例からは定かではないですが、「顕著な」という単語からも、寄与分の場合よりも、より大きく貢献をしなければならないものと思われます。
なお、顕著な貢献が認められるためには、少なくとも
・被相続人が療養看護を必要とする状況にあったこと
(療養看護の必要性)
・特別寄与料の請求者が、ある程度専従的に療養看護を行ったこと
(専従性)
・療養看護が継続的に行われたこと
(継続性)
が必要とされており、療養看護型の寄与分と同じ判断基準が用いられています。
(東京家審令和3年(家)第86号~第98号)
⑸ ⑤請求者が親族であること
特別寄与料は、請求できる人の範囲が「親族」まで広がっています。
「親族」とは、民法725条に定義があり
・6親等内の血族
・配偶者
・3親等内の姻族
とされています。
⑹ ⑥6か月もしくは1年の時効
特別寄与料の支払請求調停を家庭裁判所に申し立てる場合は、相続人であることを知った時から6か月以内に申立てをしなければなりません。
また、相続人であることを知らなくとも、亡くなってから1年を過ぎてしまうと、家庭裁判所への申立てはできなくなってしまいます。
なお、話し合いで解決するときは、必ずしも家庭裁判所に申立てをする必要はなく、その場合に時効はありません。
「配偶者短期居住権」と「配偶者居住権」 相続財産(不動産)の調査方法